謹啓
長々の御無沙汰誠に申し譯け在りません
何卒御許し下さい
皆々様も以后相変ず元気にてお暮しの事と
遠察致します
私も海軍々人として入隊以来皆々様且又
各先輩の努力に依りどうやら軍人らしき者に
成る事が出来ました
きつと雨の日も風の日も毎日氏神様に武運長久を
御祈りして居て下さつた事と思ひます
厚く御禮申し上げます
重大なる時局下愈々来るべき時が参りました
今迄に積んだ訓練を大いに発揮し軍人たるの
本分を全うする覺悟であります
私を今迄立派に育てて下さつたお父さん
お母さん何一つ孝行も出来ず残念に思つて
居ります
而し今は親に孝行する事が君に忠でなく
君に忠を盡す事が親孝行ではないでせうか
決して犬死は致しません立派に國の花と散ります
今別に改めて書く事はありません唯一つ…
中支の兄もきつと元氣にて御奉公して居る事と
思ひます何を一番楽しみに待つて居るか…
家からの便りです今迄私の所へ出して居た分を
茂兄の所へ出して下さい手紙が来ないと
本当に淋しい物ですどうか澤山出してやつて
下さい
多勢子智民も兄二人を國に捧げた名誉を
以つて立派な日本女性として元気にやつて来れ
自分も今は特攻の身として張切て居る
これが自分からの最后の便りかも知れない後をしつかり
賴む
では呉々も御身体大切に近所の皆々様に宜しく
お父さんお母さん多勢子智民お元気で
御機嫌様
茂見より
昭和二十年四月十日